建築設計の就職・転職先で主な6つの組織形態・種類の特徴と比較(建築学科必見)
建築系の学科を卒業して設計職として就職する際に自分の希望に叶う組織形態はどこなのか、そもそもどのような特徴があるのかと悩む学生は多いかと思います。
そこで建築学科で設計職希望の学生が就活の際に候補に上がる主な就職先の組織形態6つを比較してご紹介したいと思います。
主に「関われる建築物の規模」、「会社の規模」、「建築物のデザイン性(自由度)」、「個人の裁量性」の4つの切り口で比較して行きます。
あくまで一般的な傾向であり、各々の企業で特徴や強みが変わってきますので企業分析の際の参考にしてみてください。
アトリエ系設計事務所の特徴とは
そもそもアトリエ系設計事務所とはどういう特徴のある設計事務所なのか。このように記載されてます。
個人の建築家が主宰する建築設計事務所のうち、特に建築家個人の作家性・作品性を強く反映した設計を行う設計事務所に対する通称。
アトリエ系事務所は、仕事の内容面でも芸術家としてのスタンスに近い場合が多く、組織系事務所やゼネコンの建築設計部に比べると、企業体として利潤を追求するよりも、事務所を主宰する建築家個人の作家性・作品性を追求する傾向がある。(ウィキペディア引用)
アトリエ系設計事務所で働いているスタッフは事務所の代表建築家の作家性や作品性に憧れており、将来的に独立することを見越して弟子入りするような方が多いというのが現状です。
上記で記載されているように企業体として利潤を追求していないので、そこで働く場合は経済的環境が悪いことを覚悟する必要があります。
アトリエ系設計事務所とその他の比較
◾️関われる建築物の規模
有名建築家でない限り大規模な建築物の設計は厳しいというのが現状です。用途としては住宅、店舗の設計を行っている事務所が多い傾向にあります。
◾️会社の規模
従業員数は1〜5名前後くらいになります。
◾️建築物のデザイン性
他の形態の事務所と比べてデザイン性で勝負しているためデザイン性が高く、自由度もあります。ただし、デザインの傾向は代表建築家が好むデザインになります。
そのため、代表建築家が手掛ける設計が自身にとって目指すべきものなのか等をしっかり考えておかないと入社後にミスマッチを起こしてしまう危険性がありますので注意が必要です。
◾️個人の裁量性
上記の図では広いと記載させていただいてますが、正直なところ代表建築家の育成方針等による部分がかなり大きいです。
昔ながらの「背中を見て覚えろ」や「自分で考えろ」のような放任主義なアトリエ系設計事務所もあれば、「俺の言う通りにやれ」や「まずはこの部分だけやっておけ」のような雑務も含め業務の一部を与える事務所など千差万別です。
そもそも育成という概念がない方もいますので代表建築家の人柄はかなり注意深く見る必要があります。
組織系設計事務所の特徴とは
組織系設計事務所の特徴とは、設計専業で特に規模の大きな建築設計事務所に対する通称。
一つの建築設計事務所で、意匠・構造・設備・エンジニアリングシステムなどを計画・設計することが可能。さらに建築工事現場における監理もできるという特徴を持つ。
全国の主要都市(あるいは海外)に支店・支社等があり、日本あるいは海外各地の大規模な建築物の設計・監理を行っていることが多い。このような背景のもと多くの物件・事業、多種の建築物にも対応が可能であるため、必然的に実績等を蓄積している場合が多い。
その反面、アトリエ系事務所に比べると、経済効率や信頼性が優先される傾向にあるため、実験的なデザイン等を自由に行うことが少ない。
しかしながらデザイン性に劣るというわけではなく、堅実なデザインを得意とする側面が強い。(ウィキペディア引用)
就職先として人気のある組織形態になります。給与も高いため経済性という点で他の形態と比べて恵まれており、大型案件にも携われる機会もあります。
また、意匠・構造・設備の社員が在籍しているため連携が取りやすくバランス良く建築設計を学べるというような声もあります。
反対に近年の建築士の高齢化、人手不足により設計業務の分業が進んでおり限定的な部分しか携われないという声もあります。
その他には大手特有の転勤や希望部署へ配属が出来ないなどもありますのでしっかり考える必要があります。
組織系設計事務所とその他の比較
◾️関われる建築物の規模
誰もが知るような大規模な案件に関われるのが組織系設計事務所の魅力です。都市開発や街づくりという点では非常にやりがいのある案件に携われます。
◾️会社の規模
従業員数は数百名以上と大規模になります。意匠だけでなく、構造や設備設計の担当社員も在籍してます。
また、建築用途ごとに専門部隊があったり、コンペ・プロポーザル部隊などといったカタチで分業化されています。
◾️建築物のデザイン性
決してデザイン性が劣るという訳ではありません。堅実なデザインの設計を行うのが特徴です。
アトリエ系と比較すると先進的(実験的)なデザインは難しいということで普通と表記をしております。
◾️個人の裁量性
個人の裁量としては狭いというのがあります。入社数年は例えばトイレの設計など決して花形とは言えない部分の業務をしなければならないというのがあります。
また、配属部署によっては学生が思い描く設計業務から離れてしまうケースがあります。建築設計をしたくて入社したのにコンペ・プロポーザルの調整業務ばかりで出来ないということで転職というケースの方も少ないないのが現状です。
もちろん事務所により違いますが、がっつり建築設計をやりたいという方は入社後にミスマッチを起こすケースが考えられますので慎重に検討する必要があります。
中堅設計事務所の特徴とは
中堅設計事務所のイメージがしづらいと思いますが特徴を簡単に伝えるとアトリエ系設計事務所と組織系設計事務所の中間で、地元に根付いており、地元で有名な公共建築等の設計を手がけている事務所が基本的には中堅設計事務所に該当します。
従業員数はエリアにもよりますが十数名から80名弱くらいで、地場での設計実績が豊富なため案件が定期的に集まりやすいので売上が安定しているケースが多いです。
業界誌等にあまり取り上げられることも少なく、積極的に情報開示をしている事務所も少ないので学生の選択肢にあまり入らないのが中堅設計事務所です。
ある程度の人数が在籍しており組織化されてはいますが、地場のクライアントの多種多様な要望に応えるために様々な用途でかつ、その設計業務を1〜10まで効率良く、利益が出せるように1人で行えるようになることを求められる傾向があります。
利潤追求が第一優先だけども、高いデザイン力で。人は在籍しているけども大手のように分業は出来ないので個の力に頼りたい。
そのような中堅事務所側の要望があるので設計技術、デザイン、ビジネス(利潤追求)分野をバランス良く学びたい方には、経済性(給与)もそこそこなのでオススメです。
働き方に関しては人手不足等により積極的に働きやすい環境へと改善している中堅設計事務所が多いです。
中堅設計事務所とその他の比較
◾️関われる建築物の規模
小規模から大規模まで様々な用途が出来ます。大規模と言いましても基本的には地元の大型案件というような位置付けです。小規模では地元の社長などの高級住宅設計や店舗設計というのが多い傾向にあります。
◾️会社の規模
従業員数はその設計事務所が根ざしている市区町村の人口に応じて変わってきますが、十数名から80名弱くらいになります。簡単な目安として30〜50万人くらいの人口で約30名くらいが中堅設計事務所に位置付けられます。
◾️建築物のデザイン性
デザイン性については堅実なデザインが多いということで普通と定義させていただいてます。
中堅設計事務所の場合は公共案件と民間案件の比率がだいたい5:5の割合になるケースが多いです。
公共案件の場合はやはり堅実なデザインになります。ただ、小規模案件の場合は個人の裁量範囲が広いという特徴もあるため自由にデザインしている方もいるという印象です。
◾️個人の裁量性
設計業務を1〜10まで効率良く行い、利益が出せるようになってこそ1人前という傾向があるので組織系設計事務所と比較して早い段階で実務能力を得られるのではないかと思います。
また、アトリエ系設計事務所と比較しても組織化されているためステップを踏まえて学べるのではないかと思います。早い段階で認められれば30代でも大きなプロジェクトに携われるというのも魅力の一つです。
ゼネコン設計部(建設業設計部)の特徴とは
建設業を行っている会社でゼネコンや施工会社の中にある建築設計部のことをゼネコン設計部(建設業設計部)というように言います。
やはり有名どころは大手ゼネコンである竹中工務店、清水建設、大林組、大成建設、鹿島建設の設計部などです。
設計事務所とゼネコン・施工会社の大きな違いはどの部分で主に利益を出すかという点です。
設計事務所の場合は主に「設計・監理」の部分で利益を出します。ゼネコン・施工会社の場合は「施工(工事)」の部分で利益を出そうします。
そのため、「施工ありき」で話が進んでいくため設計事務所と比較するとどうしてもサブ的な扱いにはなってしまう傾向があります。
組織の規模感等によりますが、その会社が得意とする「工法」によっても設計のデザインや自由度が固定されるということもあります。
こちらの組織形態も就職・転職の際には人気な候補先です。様々なエキスパートと連携して業務が出来る、施工のことが理解出来る、大型案件に携われる、経済力が高いなどが魅力です。
業務量に関しては各々の企業で差がありますが昨今の働き方改革により改善されているようです。
ゼネコン設計部(建設業設計部)とその他の比較
◾️関われる建築物の規模
大手ゼネコンの場合はやはり超大型案件に携われます。また、地方に根ざしている地場のゼネコンであっても地元の有名な建築に携わることが出来ます。そう意味では大型案件に携われる機会が多いと言えます。
◾️会社の規模
会社の規模は基本的には6つの組織形態で1番大きい傾向にあります。かなり組織的で業務が分業されています。
また、大型案件等にアサインされると長くその業務に携わったり、転勤や異動というような話もあります。就職や転職を検討される場合はこの辺りを整理する必要があります。
◾️建築物のデザイン性
もちろん企業の特徴によって違いはあり、断言は出来ませんが施工ありきのため設計事務所と比較する劣る傾向にあると考えた方が良いかと思います。
もちろん建築はデザインだけでなく、環境保全や機能性など他にも重要な観点があるのでその部分を理解するという点では面白い部分もあるかと思います。
◾️個人の裁量性
やはり組織の規模が大きいというのと施工ありきという点でも設計事務所と比較して個人の裁量性は狭い傾向にあります。
ハウスメーカー(ビルダー)の特徴とは
ハウスメーカー(住宅メーカー)とは全国の広範囲で住宅の販売・建設をしている企業のことを主に指します。
大手ハウスメーカーと言えば三井ホーム、ヘーベルハウス、住友林業、積水ハウス、セキスイハイム、ダイワハウス、パナソニックホームズ、ミサワホームなどがあげられます。
また、一部の都道府県やエリアでやっているなど大手ほどの規模感がない企業をハウスビルダー、パワービルダーなどと呼称するケースもあります。
基本的にあらかじめ企画や工法、デザインが定められているのが特徴でこちらも設計・監理で利益を上げるのではなく、施工(工事)で利益を上げるようなかたちです。
工場で部材を加工した上で、現場に搬入して家を建てる、プレカット、ツーバイフォー工法、プレハブ工法、ユニット工法などと呼ばれる工法を多用したり、同一の住設機器(キッチン等)などを大量に仕入れることで工事コストを下げています。
ハウスメーカー(ビルダー)とその他の比較
◾️関われる建築物の規模
ほとんどが戸建て住宅になります。他のケースではアパートや店舗・事務所兼住宅、クリニックなどといった住宅以外の案件にも関われるケースがあるため中規模〜小規模というように定義しております。
◾️会社の規模
規模は設計事務所と比較すると大きくなります。ハウスメーカーの場合は設計以外に営業や不動産などといった他部門の方との連携も多くなってきます。
設計以外のその他の能力(不動産知識や営業等)を身に着けるという点では全体像が見えて面白いかと思います。
◾️建築物のデザイン性
基本的には施工ありきで企画や工法、デザインが決まっているのでそれに沿った提案になるケースが多くなります。
業務内容については建築確認申請に伴う業務など設計事務所と比較すると決められた事務的な業務が多くなる傾向にあります。
しかし、ストックのデザインパターンが豊富であったり、社長の住宅などの高級住宅の案件が回ってくることもあるので住宅のデザインを学ぶには良いという声もあります。
◾️個人の裁量性
施工ありきというのと企画や工法、デザインが決まっているので設計事務所と比較すると狭いと言えるかと思います。
また、会社の規模が大きくなればなるほど分業化されているケースが多いので裁量範囲は狭くなってきます。
工務店の特徴とは
工務店の定義は曖昧な明確なものがありませんが、簡単に言うと地域密着で腕に自身のある大工・職人の集団のことを指します。
住宅を売るというよりは1棟1棟こだわり抜いて施主とのコミュニケーションの中で家づくりをしていくという傾向があります。
地場に密着して行っているためそのエリアの気候などの特徴を把握していたり、アフターフォローも手厚いというような特徴もあります。
また、工事を下請けに流さずに自社で行う傾向があるので品質が高いという特徴もあります。
しかし、工務店によっては施工品質や保証などがピンキリではあるのでその会社の特徴や経営力、住宅に対するこだわり等をしっかり把握した上で働くべきかどうかを判断する必要があります。
工務店とその他の比較
◾️関われる建築物の規模
基本的に住宅のみを行っている企業が多い傾向にありますが、アパートや店舗などを手がけて企業もあるので小規模〜中規模と定義しております。
◾️会社の規模
こちらも根ざしている地域の人口に応じて規模が変わってきます。中堅設計事務所と同じくらいの規模感という認識で良いかと思いますが、設計部に所属している人は少数精鋭で数名というようなかたちにはなってきます。
◾️建築物のデザイン性
こちらも設計事務所と比較すると施工ありきということもあり、デザインの自由度は低くなってくるかと思います。
ただ、ハウスメーカーと比べると企画等が決まっていないのためデザイン性を追求しやすい部分はあるように感じます。
◾️個人の裁量性
施工ありきという部分であったり、自社が得意としている工法によって業務が規定されてくる部分は設計事務所と比較すると狭いですが、施主の要望に沿った住宅づくりができる点や少数精鋭で設計業務を回しているという点を考えると裁量性は普通くらいになるかと思います。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
6つの組織形態によって各々特徴があります。ここでの記載はあくまで一般的な傾向であり、各社によって強みや弱みがあるので全てが当てはまるという訳ではありません。
しかし、企業の見方の切り口の1つとして本内容を参考にしていただければと思います。
後は自身がどの項目を優先すべきかを明確にする必要があります。
給料なのか、休みなのか、建築家や建築士としての能力なのか等の企業選びの項目に対して自身でしっかりと優先順位を決めることが重要です。
例えば、大手ゼネコンに就職したものの自分の思うように設計が出来ない、設計部に入れなかった等で設計事務所に転職する例であったり、アトリエ系に入ったもののボスとウマが合わない、経済力が低すぎる等でゼネコンやハウスメーカー系に転職したなどミスマッチが1番の問題です。
6つの組織形態の特徴を参考に、企業分析をしていただいて自分に合う会社を見つけ出していただければと思います。